個人事業主として働いている方のなかには、持ち家を購入し、住宅ローンを組んでいる方もいるでしょう。事業で使用している電気代や水道代などは、使用している分を経費にできることはご存知の方も多いかもしれません。
それでは、住宅ローンはどうなのでしょうか?本記事では、住宅ローンを経費にできるのかどうか、経費として計上する際の勘定項目や住宅ローン控除とどちらを優先すべきなのかを解説します。
住宅ローン控除の制度は、ここ数年頻繁に変更されているため、事業の収益を最大化できるよう、よく理解しておきましょう。
1.住宅ローンは経費にできる?
結論からいうと、住宅ローンには経費にできる部分とできない部分があります。本章では、それぞれを詳しく解説します。
1.1.住宅ローンで経費にできる部分
住宅ローンで経費にできる部分は、利息です。ただし、利息すべてではなく、事業用として使用している割合に応じて、経費として計上します。
このように、生活費と事業費を切り分けて考えることを「家事按分」と言います。住宅の場合は、面積の割合で計算することが一般的。
例えば、50平方メートルの自宅のうち、事業用に使用している部分が10平方メートルであれば、20%分を経費として計上します。
なお、白色申告の場合は、事業用の割合が50%を超えている場合に計上が可能です。先ほどの例でいうと、25平方メートルを事業用としている場合に経費にできます。一方、青色申告の場合は、事業用の割合に制限がありません。
1.2.住宅ローンで経費にできない部分
住宅ローンの元本部分は、経費にできません。なぜなら、住宅ローンは資産(この場合は自宅)を購入するために、金融機関から借りたものであるからです。借りたものは返さなければなりません。
あとで詳しく解説しますが、経費にできる費用は、事業をするうえで必要なものとされています。しかし、住宅ローン以外にも、自宅に関する費用で経費として計上できるものは、他にもあります。
次章で詳しく見ていきましょう。
2.個人事業主が経費にできるもの
先述したように事業に必要なものであれば、経費として計上できます。本章では、どういったものが経費にあたるのか、また住宅関連で経費にできるものを解説します。
2.1.事業に必要な費用を経費にできる
個人事業主は、事業に必要な費用であれば、経費として計上できます。経費が多いほど課税所得が減るため、結果として納めるべき税金も抑えられます。経費の具体例として、次のようなものがあります。
- 水道光熱費
- 通信費
- 旅費交通費
- 新聞図書費
- 車両費
しかし、事業に使用していると証明しなければなりません。領収書は丁寧に保管するようにしましょう。
2.2.住宅関連で経費にできるもの
住宅ローン以外にも、住宅関連で経費にできるものがあります。具体的には次の4つです。
- 火災保険料
- 地震保険料
- 固定資産税
- 減価償却費
例えば、自宅を事務所にして事業をしている場合、火災保険料や地震保険料も経費として計上が可能です。しかし、繰り返しになりますが、居住用と事業用で家事按分をしなければなりません。
また、地震保険料は、所得税の保険料控除を受けられますが、居住部分のみが控除の対象となります。自宅兼事務所の場合、事業用の部分は控除が受けられないため、注意しましょう。
また、固定資産税も経費として計上が可能。こちらも事業として使用している部分のみとなります。最後に、減価償却費も計上できます。減価償却費とは、高額な資産を購入した際の取得費を、耐用年数に応じて経費として計上するもの。
住宅の場合、建物の構造によって耐用年数は異なります。具体的には次のとおりです。
構造 | 耐用年数 |
木造・合成樹脂造 | 22年 |
木骨モルタル造 | 20年 |
鉄骨鉄筋コンクリート造 鉄筋コンクリート造 | 47年 |
例えば、自宅が木造だった場合、耐用年数は22年となります。しかし、実際に減価償却費を求める際には、居住用として利用していた期間の減価償却費分を引いてからおこないます。
計算は複雑なため、税理士といった専門家に依頼すると安心でしょう。
3.個人事業主が住宅ローンを経費として計上する際の勘定項目
個人事業主が確定申告をする際には、経費を適切に計上しなければなりません。それでは住宅ローンの利息はどのように計上すればいいのでしょうか。本章では、住宅ローンの利息を経費として計上する際の勘定項目を解説します。
3.1.住宅ローンの利息は支払利息で計上する
住宅ローンの利息は、「支払利息」で計上します。「支払利息」とは、その名のとおり、借入金にかかる利息を支払ったときに使用する勘定項目です。
ただし、事業用か個人用のどちらの口座から引き落としているのかによって、仕分けの仕方が異なるため注意しましょう。
<事業用の口座から引き落としている場合の例>
借方 | 貸方 |
借入金 +支払利息(事業用部分) +事業主貸(住宅部分) | 現金あるいは預金 |
<個人用の口座から引き落としている場合の例>
借方 | 貸方 |
借入金 +支払利息(事業用部分) +事業主貸(住宅部分) | 事業主貸 |
どちらも支払利息と事業主貸を足した額が利息の総額となります。また、あくまでも例であり、人それぞれ適切な計上の仕方は異なります。不明な場合は税務署や税理士に問い合わせましょう。
4.個人事業主が住宅ローン控除の恩恵を最大限受ける方法
これまで、住宅ローンにおける経費計上の方法を見てきました。しかし、経費として計上するよりも、住宅ローン控除を受けたほうが節税になる可能性もあります。それはどのように判断すればいいのでしょうか。本章では、住宅ローン控除を受けたときの控除額がどうなるのか、シミュレーションをしながら解説します。
4.1.住宅ローン控除とは
まず、住宅ローン控除とはどういったものなのかを押さえておきましょう。住宅ローン控除とは、年末時点の住宅ローン残高の0.7%が、所得税から控除される制度です。
例えば、年末時点の住宅ローン残高が2,000万円だった場合、14万円が所得税から差し引かれます。所得税から引ききれなかった場合は、住民税から差し引かれます。
4.2.住宅ローン控除を受けるための要件
住宅ローン控除を受けるためには、一定の要件を満たさなければなりません。具体的には、次のような要件があります。
- 住宅を新築した日から6カ月以内に住んでいること
- 住宅ローン控除を受ける年の12月31日まで引き続き住んでいること
- 住宅ローンの返済期間が10年以上であること
- 住宅の床面積が50平方メートル以上かつ、床面積の2分の1以上が自分が住むためのものであること※1
- 住宅ローン控除を受ける年の合計所得金額が2,000万円であること※2
※1:認定長期優良住宅や認定低炭素住宅などの特例認定住宅の場合は、床面積が40平方メートル以上50平方メートル未満であり、かつ床面積の2分の1以上が自分が住むためのものであること
※2:特例認定住宅の場合は合計所得金額が1,000万円であること
購入する住宅の性能や、入居する年によって受けられる控除額や控除期間が異なるため、詳しくは国税庁のホームページで確認しましょう。
4.3.住宅ローン控除を上限額まで受けたいとき
一般的に、住宅ローン控除を受けたほうが控除額が大きいため、節税効果が高いとされています。それでは、上限額まで受けたい場合はどうすればいいのでしょうか。
それは、家事按分を事業用10%以下、居住用の床面積を90%以上にすること。居住用の床面積が90%以上であれば、居住用の床面積が100%として控除額が計算されるため、上限額まで控除を受けられます。
4.3.1.居住用の床面積が90%以上のとき
実際に、控除額をシミュレーションしてみましょう。条件は次のとおりです。
<条件>
年末時点での住宅ローン残高:3,500万円
住宅の種類:長期優良住宅
控除率:0.7%
居住用の床面積の割合:90%
事業用の床面積の割合:10%
この場合、控除額の計算式は次のようになります。
3,500万円×0.7%=24万5,000円
この場合、居住用の床面積が90%以上であるため、100%とみなされ、全額控除が受けられます。
4.3.2.居住用の割合が50%以上〜90%の未満のとき
それでは、居住用の割合が50%以上〜90%未満の場合は、住宅ローンの控除額はどうなるのでしょうか。この場合、住宅ローンの控除額は、次の計算式で求められます。
住宅ローンの控除額=住宅ローン控除の上限額×居住用の割合
それでは、控除額がどうなるのかをシミュレーションしてみましょう。条件は次のとおりです。
<条件>
年末時点での住宅ローン残高:3,500万円
住宅の種類:長期優良住宅
控除率:0.7%
居住用の床面積の割合:60%
事業用の床面積の割合:40%
わかりやすくするため、住宅ローン残高は上限額まで受けたいときのシミュレーションと同じ金額です。そのため、住宅ローン控除の上限額は24万5,000円となります。
ここから、居住用の割合に応じた住宅ローンの控除額を求めます。計算式は次のようになります。24万5,000円×60%=14万7,000円
この場合の住宅ローン控除額は14万7,000円となりました。上限まで控除を受けた場合と比較すると、9万8,000円下がったことになります。居住用の割合が高いほど、住宅ローン控除額が増えることがわかるでしょう。
5.個人事業主の住宅ローンに関するよくある質問
個人事業主の住宅ローンに関するよくある質問をまとめました。
5.1.住宅ローンは経費にできる?
住宅ローンの元本部分は経費にできませんが、利息は経費として計上が可能です。ただし、利息全額ではなく、事業用の割合に応じて計上する必要があります。事業用の割合は、床面積の割合から算出することが一般的。例えば、全体の床面積が60平方メートルで、事業用として15平方メートルを使用している場合、25%が事業用の割合となります。
5.2.住宅ローンの利息の勘定項目は?
住宅ローンの利息は、「支払利息」という勘定項目を使用します。仕分けの方法がわからない場合は、税務署や税理士に問い合わせてみましょう。
5.3.住宅ローンの名義が夫でも経費にできる?
夫名義で住宅ローンを組んでいても、妻が事業用に利用している部分については、家事按分をして経費として計上が可能です。
国税庁のホームページでは、次のように記載されています。
(親族の資産を無償で事業の用に供している場合)
国税庁 法第56条《事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例》関係
56-1 不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を営む居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその有する資産を無償で当該事業の用に供している場合には、その対価の授受があったものとしたならば法第56条の規定により当該居住者の営む当該事業に係る所得の金額の計算上必要経費に算入されることとなる金額を当該居住者の営む当該事業に係る所得の金額の計算上必要経費に算入するものとする。
わかりやすく言うと、家計が一つであれば、夫名義でも妻の経費として計上できるということです。ただし、妻から夫に家賃を支払っている場合は、経費にできないため注意しましょう。
6.まとめ
今回の記事では、個人事業主が住宅ローンを経費として計上できるのかを解説しました。
結論をいうと計上は可能ですが、利息の部分、かつ事業と使用している部分に限られます。
また、固定資産税や火災保険料なども、経費として計上できます。ただし、こちらも家事按分をし、事業用に使用している部分に限られるため、注意しましょう。
住宅ローンを組んでしばらく経ってから事業を始めた場合、計算が複雑になります。もし誤って申告をすると、ペナルティが課される可能性もあるため、税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。